アレルギー科
【アレルギー科】
当院であつかう主なアレルギー疾患
かぶれ アトピー性皮膚炎 じんましん など
かぶれ
おもに原因となる物質と皮膚が接触し,その部分が赤くなる病気です。接触した部分のみにできることが多いですが,ときに全身に広がることもあります。かぶれには,何らかの原因物質が皮膚に接触し,体内のアレルギー反応を起こしてできるタイプと,何らかの原因物質が皮膚を刺激することによって生じるタイプがあります。かぶれを起こす原因物質は,金属,植物,食べ物,化粧品,シャンプー,消毒液,添加物,化学薬品など様々です。かぶれの原因を知る検査として,貼付試験(パッチテスト)があります.当クリニックでは,皮膚に接触する様々な物質(歯科金属,化学物質,化粧品,食物など)24種類を,パッチパネルSというシートを用いて背部に24種類の物質を貼り,2日後,3日後,場合によってはそれ以上後にも判定します。判定日が休診と重なる場合,判定日にどうしても来院できない場合,スマートフォンなどで写真を撮って頂き,それをもとに判定することになります。治療は,ステロイド外用薬が基本ですが,かゆみが強い場合,抗ヒスタミン薬の内服を併用します。
アトピー性皮膚炎
かゆみのある湿疹が,よくなったり悪くなったりを繰り返すことの多い病気です。本人や家族が気管支ぜんそくやアレルギー性鼻炎,アトピー性皮膚炎などにかかったことがあるとか,ダニ,ホコリなどに対し,アレルギー反応を示しやすい人がアトピー性皮膚炎になりやすいとされています(これを,アトピー素因とよびます)。アトピー性皮膚炎の患者さんは,皮膚の水分を保ち,外からの侵入を防ぐ,いわゆる「バリア機能」が低下しています。そのため皮膚は乾燥し,外からの刺激やアレルゲンに対しても,皮膚の内部が過剰反応を起こし,湿疹やかゆみが生じます。
年齢によって,皮膚の症状や湿疹の分布が異なります.乳児期では,首より上にじゅくじゅくとした湿疹が生じます.また,食物アレルギーと関係していることが多いといわれています。小児期では,肘や膝の内側などに,外からの刺激による,皮膚が厚くなった湿疹が生じ,皮膚の乾燥がはっきりとみられます。思春期以降では,皮膚は黒っぽく,さらに乾燥し,皮膚が厚くなった湿疹の範囲がより拡大する傾向にあります。
当クリニックでは,血液検査により,ダニ,ホコリ,花粉など,39種類もの物質を同時に調べることができます.また,アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患で高値を示すことの多いIgEやTARCも血液検査で調べることが可能です.アトピー性皮膚炎と診断されても,ダニ,ホコリなどの数値やIgE,TARCの値が全て正常な場合もあります。当クリニックでは,10歳以下の子供さんの血液検査は行っていませんので御了承下さい。 アトピー性皮膚炎,特に重症例では免疫力が低下しているため,とびひ,みずいぼ,いぼ,単純ヘルペス(別項参照)などの皮膚感染症をしばしば合併します。また,目のまわりを頻回にこすっていると,白内障や網膜剥離などの目の症状をきたすことがあります。
かつてはステロイド外用薬やプロトピック軟膏(免疫抑制剤)外用により赤みや痒みを抑え,保湿剤外用により皮膚の乾燥を改善し,抗ヒスタミン薬の内服によりかゆみをおさえることが基本的な治療法でした。眼瞼に長期間ステロイド外用薬を塗布すると眼圧が上がることがあるので注意が必要です。症状がひどい患者さんには,紫外線治療を併用し、ステロイド剤内服や時にネオーラル(免疫抑制剤)内服を併用します。
2020年6月,ヤヌスキナーゼ(JAK)という酵素の働きを阻害することで痒みなどのアレルギー炎症を改善させる免疫調整薬,コレクチム軟膏が発売されました。2022年6月,ホスホジエステラーゼ4(PDE4)という,炎症反応にかかわる酵素を阻害することでアトピー性皮膚炎の皮疹や痒みを抑える抗炎症薬,モイゼルト軟膏が発売となりました。コレクチム軟膏,モイゼルト軟膏ともに中等度のステロイド外用薬に匹敵する効果があるといわれ,主として比較的症状が軽度で安定した皮疹に処方される傾向にあります。さらに,プロトピック軟膏でみられるような,お肌が熱くてひりひりするような感覚を訴える患者さんはほとんどみられず,ステロイド外用薬を長期外用することにより生じ得る,顔面の発赤や皮膚の菲薄化などの副作用もありません。但し,脂性肌,ニキビ肌の顔面に外用すると,かえって赤みやニキビがひどくなることがあり,ヘルペスが出現することもあります。
顔面,眼瞼には,プロトピック小児用軟膏やプロトピック軟膏,コレクチム軟膏,モイゼルト軟膏を使用し,炎症が強い場合はステロイド外用薬にて炎症を抑えることを優先します。プロトピックは眼瞼の赤みにはよく効きますが,ただれた皮膚や敏感肌には使用を避けるべきでしょう。顔面,眼瞼にプロトピックを使用する際,保湿剤を外用後,弱いステロイド外用薬とプロトピックを交互に外用し,プロトピックを外用しても違和感がなくなった時点でプロトピック主体の外用に徐々に移行するのがよいでしょう。経験上,コレクチム軟膏は症状が落ち着いた皮疹に,モイゼルト軟膏とプロトピックは,それより若干炎症が強い皮疹に対しても効果が期待されます。炎症が落ち着いているが不安定な皮疹にはコレクチム軟膏を,やや炎症が強いがステロイド単独外用を行うほどではない皮疹には,モイゼルト軟膏またはプロトピックを,それぞれステロイド外用薬と交互に外用することから始めるのが無難と思われます。
【デュピクセント】
デュピクセントは,アトピー性皮膚炎の炎症や痒み関わりのある物質を選択的にブロックすることによって,皮膚症状や痒みなどを改善させる注射薬です。対象年齢は15歳以上です。中等度以上のアトピー性皮膚炎で,ステロイド外用薬やプロトピック軟膏などによる治療を6カ月以上行うも十分な効果が得られなかった方が適応となります。体幹,四肢の赤みや痒みには即効性があり,顔面の赤みは緩徐に改善する傾向にあります。
デュピクセント投与開始日のみ,2本を皮下注射します。その後は2週間に1回,1本を皮下注射します。注射による疼痛を緩和するため,45分以上前に室温においておきます。注射に適した場所は,上腕部外側,へそまわり以外の腹部,大腿部の3カ所です。時に全身倦怠感やショックをきたすことがあります。従って,初回のみクリニックで注射後20分経て特記すべき症状がみられないことを確認し,帰宅して頂くようにしています。
デュピクセント導入3回目以降は,在宅での自己注射が可能です。使用した注射は用意された袋に入れ,クリニックか薬局へ持参して下さい。2020年11月,ペン型の注射器が発売されました。従来のシリンジに比べ,使用時,使用前後も針が見えず安全性が高い上,操作が簡便であるといった利点があるため,簡単に自己注射できるようになりました。

1カ月(その月の1日~末日)の間に医療機関の窓口で支払うべき額(自己負担額)が一定の金額を超える場合,自己負担額を一定額(自己負担上限額)にまで抑えることができる、高額療養費制度があり,医療費負担が軽減されます。自己負担の月間上限額は,年齢や世帯の所得により異なりますので,ご自身がどの適用区分に該当するかは,ご加入されている医療保険の保険者にお問い合わせ下さい。また,こちらのリンクをもご参照ください(デュピクセントホームページ)【生物学的製剤「高額療養費制度」】。

ひとり親家庭医療の助成制度は高校卒業まで可能ですが,市によって多少金額が異なりますので,市のホームページなどでご確認下さい。高校卒業後もデュピクセント治療を続ける場合,例えば大学の互助会や企業の付加給付など福利厚生などをご利用頂くとよいかと思われます。
2022年8月,薬価が改訂されました。薬剤費・自己負担額は下記の表に示す通りです。

重大な副作用として,まれにアナフィラキシーショック(呼吸困難・咽頭浮腫、血圧低下,蕁麻疹など)があります。その他,めまい,全体倦怠感,注射部位に赤みや疼痛,結膜炎,単純ヘルペスなどが出現することがあります。
デュピクセントの治療実績
当クリニックでは,2023年2月28日までに,中等症および重症アトピー性皮膚炎患者64名に導入し,重篤な副作用を起こすことなくほぼ全ての患者さんの赤み,痒みを改善することができました。

内服JAK阻害薬
内服JAK阻害薬とは,アトピー性皮膚炎の炎症や痒みに関わりのあるヤヌスキナーゼ(JAK)をブロックすることによって,皮膚症状や痒みなどを短期間で改善させる内服薬です。アトピー性皮膚炎の適応をもつ薬剤には,オルミエント,リンヴォック,サイバインコの3種類があります。オルミエントでは15歳以上,リンヴォックでは12歳以上かつ体重30kg以上の小児および成人,サイバインコでは,12歳以上の小児および成人が対象となります。いずれも,中等度以上のアトピー性皮膚炎で,ステロイド外用薬やプロトピック軟膏などによる治療を6カ月以上行うも十分な効果が得られなかった方が適応となります。
投与前には,血液検査,胸部レントゲン検査にて,主に以下のことを確認します。但し、健康診断などで半年以内にレントゲン検査を受けた場合,検査結果を持参し,異常がなければ胸部レントゲン検査は不要となります。
- 感染症にかかっていないか。
- 結核にかかっていないか。
- B型肝炎ウイルスに感染していないか。
- 血液中の好中球数,リンパ球数,ヘモグロビン値に異常がないか。
- 肝機能異常,腎機能異常はないか。
妊娠または妊娠している可能性のある方,授乳中の方には投与できません。悪性腫瘍の既往のある方は,悪性腫瘍の発現率が高くなるとの報告があり,注意が必要です。
投与後,定期的に検査を施行します。血液一般検査は,投与後1-2カ月後に行い,その後3-5カ月に1度の間隔で行います。B型肝炎,結核を含めた血液検査および胸部レントゲン検査は,年に1回程度行います。
オルミエントでは,通常4mgを1日1回内服します。患者さんの状態に応じて,1日1回の内服量を2mgに減量します。リンヴォックでは,通常12歳以上かつ体重30kg以上の小児には,15mgを1日1回内服します。また,通常成人には15mgを1日1回内服しますが,患者さんの状態に応じて,30mgを1日1回投与することができます。サイバインコでは,通常100mgを1日1回内服しますが,患者の状態に応じて,200mgを1日1回投与することができます。※サイバインコは,2022年12月1日から、14日以内の処方制限が解除となりました。
2022年4月現在,オルミエントの薬価は,2mgで1錠2705.9円,4mgで1錠5274.9円です。窓口での支払額は3割負担の場合,2mgで1錠812円,28日分で22730円,4mgで1錠1582円,28日分で44309円となります。リンヴォックの薬価は,15mgで1錠5089.2円,30mgで1錠7351.8円です。窓口での支払額は3割負担の場合,15mgで1錠1527円,28日分で42749円,30mgで1錠2206円,28日分で61755円となります。サイバインコの薬価は,100mgで1錠5044円,200mgで1錠7566.1円です。窓口での支払額は3割負担の場合,100mgで1錠1513円,28日分で42370円,200mgで1錠2270円,28日分で63555円となります。

医療費助成制度に関しては,デュピクセントの項をご参照下さい。
重大な副作用として,感染症(肺炎,帯状疱疹,結核など),消化管穿孔,静脈血栓塞栓症,好中球減少,リンパ球減少,ヘモグロビン減少,肝機能障害などがあげられます。好中球数1000/mm3未満,リンパ球数500/mm3未満,ヘモグロビン値8g/dL未満になった場合,一旦投与中止します。その他の副作用として,悪心・嘔吐,上気道感染,気管支炎,単純ヘルペスなどがあります。副作用の程度によっては,総合病院や大学病院へ紹介する場合もあります。
じんましん
突然,皮膚にかゆみを伴う赤いふくらみができる病気で,夕方から朝方に悪化しやすい傾向にあります.1つのふくらみは数時間で消えてはまた別の場所にできることを繰り返します.じんましんは,主にヒスタミンという物質を介して起こります。じんましんには,症状が6週間未満で治まる急性じんましんと, 6週間以上続く慢性じんましんに大別されます。原因として,細菌感染,食物,薬物,温熱や寒冷などの外からの刺激,発汗,ストレスなど様々なものがあります。慢性じんましんの多くは原因不明で,10年以上続くこともまれではありません。時に呼吸が苦しくなったり,ショック症状をきたしたりすることがあります。そのような症状が出現したら,直ちに大きな病院にかけつけましょう.検査として,アレルゲンが疑われる物質を検査用の針で少量皮膚の中に入れ,15分から20分後に判定するプリックテストがありますが,当クリニックでは行っていません。治療は,ヒスタミンをおさえる抗ヒスタミン薬の内服が主体です。症状がひどいじんましんやなかなか治らない場合には,ステロイド薬の内服や葛根湯などの漢方薬,胃薬を併用することがあります。
【ゾレア】
標準的な治療を行っても治りきらない原因不明のじんましんに対し,ゾレアの皮下注射を行い,奏効することがあります。対象年齢は12歳以上で,1回300㎎を4週間隔で行います。デュピクセントと同様,時に全身倦怠感やショック様症状をきたすことがあるので,初回は注射後20分経過し,特記すべき症状が出現しないことを確認後,帰宅して頂くようにしています。2022年4月現在,ゾレア150mgシリンジの薬価は1本29147円です。窓口での支払額は3割負担の場合,ゾレア150mg2本で1回17488円となります。