一般皮膚科

【一般皮膚科】

一般皮膚科について

 皮膚科で診察する病気には実に多くの種類があります。代表的な病気として,かぶれ,アトピー性皮膚炎,虫刺され,ニキビ,とびひ,水虫などで,爪の異常や脱毛症も皮膚科で診察します。違う病気でも治療方針はさほど変わらないものもあれば,似たような症状でも治療法が全く異なることもあります。慢性の皮膚の病気は治りが悪いことが多く,気長に根気よく治療していくことが大切です。

当クリニックでは,患者さんの皮膚の状態をできるだけ早く的確にとらえ,それぞれの患者さんに最も望ましいと考えられる治療を進めていきたいと思います。ただし,重症の場合や皮膚科の領域でない病気の場合などは,他院へ御紹介することがあります。

主な皮膚疾患

湿疹 やけど(熱傷) とこずれ 乾癬(かんせん) 掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう) ニキビ 円形脱毛症 単純ヘルペス 帯状疱疹 水虫 虫さされ 疥癬(かいせん) など

湿疹

外からの刺激と体質など内面的な要素が影響しあうことによってできる皮膚の病気で,多くはかゆみを伴います。外からの刺激には,物理的刺激(日光,温熱,寒冷,乾燥など),化学的刺激(化粧品,洗剤,薬物など),アレルゲン(金属,花粉,ハウスダスト,植物、昆虫など)があります。内面的な要素には,皮膚の乾燥,皮脂分泌・発汗異常などの皮膚の異常や,アレルギー体質,内臓疾患などの全身的な異常があげられます。

湿疹の種類には,アトピー性皮膚炎かぶれ,皮膚の乾燥やかぶれなどにより生じる,円形でじゅくじゅくとした貨幣状湿疹,かぶれや貨幣状湿疹などを掻くことによって,全身に小さなブツブツができる自家感作性皮膚炎,手に慢性的な刺激が加わって生じる手湿疹(いわゆる“手あれ” ),金属アレルギーや精神的ストレスなどが原因となり,手のひらや足の裏に小さな水ぶくれをきたす汗疱性湿疹(異汗性湿疹ともいいます),加齢などが原因で皮膚が乾燥し,そのために生じる皮脂欠乏性湿疹,マラセチア(カビの一種)やストレスなどが原因で,顔面や頭皮などの皮脂の多く出る部分に生じる脂漏性湿疹などがあります。

治療はステロイド薬の外用が主体で,皮膚の乾燥がみられる場合,保湿剤の外用を併用します。かゆみが強い場合には抗ヒスタミン薬というかゆみを止める薬を内服します。皮膚症状がひどい場合,ステロイド薬を少量内服することがあります.脂漏性湿疹では,ビタミンB2,B6 の内服や,カビの治療薬であるニゾラールクリーム,ニゾラールローションを用いることがあります。

乾癬(かんせん)にのみ保険適応であったコムクロシャンプー(ステロイド含有シャンプー)が,2021年2月24日,頭部の湿疹・皮膚炎にも適応追加となりました。赤みや痒みが著しく,痂疲がこびりついた頭部湿疹に効果的です(使用方法は乾癬の項を参照して下さい)。

やけど(熱傷)

熱湯やカイロなどの熱によってできる皮膚組織の損傷です.皮膚組織は,表面から表皮,真皮,さらに皮下組織と続きます.やけどは,深さによって見た目や症状などが異なります。Ⅰ度熱傷は,深さが表皮にとどまるものをさし,日焼けがそのよい例です。Ⅱ度熱傷は,深さが真皮にまで達し.さらに,真皮の浅いところにとどまるⅡ度浅層熱傷と,真皮の深いところまで達するⅡ度深層熱傷に分けられます。Ⅱ度浅層熱傷では強い痛みを伴う赤みがみられ,目だった瘢痕(はんこん)を残さないのに対し,Ⅱ度深層熱傷では知覚が低下し,瘢痕を残すなどの違いがあります。Ⅲ度熱傷は,皮下組織にまで達し,白色ないし黒色で知覚は完全に消失しています。カイロやあんかなどによる低温熱傷は,長時間皮膚に接していることが原因で,深くにまで達していることが多く,たいていは瘢痕を残してしまいます。

やけどの分類

治療は,すぐに冷水などで冷やすことが大切です。少なくとも30分から1時間は冷やしましょう。Ⅰ度熱傷では,ふつう外用は必要ありませんが,アズノール軟膏など炎症をおさえる保湿剤を2-3日ぬることもあります.Ⅱ度浅層熱傷では,アズノール軟膏やステロイド薬外用,ドレッシング材(創傷被覆材ともいいます)などを用います。Ⅱ度深層熱傷では,感染している場合,ゲーベンクリームなどの外用薬,感染しなければアズノール軟膏やステロイド外用薬などを用い,感染や炎症が治まった時点で,ドレッシング材や皮膚の損傷を改善する外用薬に切りかえます。Ⅲ度熱傷では,ゲーベンクリームなどで感染をおさえ,その後,死滅した組織を除去していきます。広範囲におよぶⅡ度深層熱傷,比較的広いⅢ度熱傷および気道がおかされた場合などは,大きな施設での治療が必要となります。

とこずれ

骨が突出している部分などに外からの力が加わると,その部分の皮膚や皮下組織の血流低下をきたします。この状況が一定時間続くと,皮膚や皮下がダメージを受けます.このようにしてできた皮膚の損傷を,とこずれ(褥瘡;じょくそう)といいます。

とこずれの発生要因には,直接的要因と二次的要因に分けられます。直接的要因は,外からの力が持続的に加わることによる,皮膚や皮下組織の循環障害です。二次的要因はさらに,局所的要因,全身的要因,社会的要因があります。これらの要素が複雑にかかわり合ってとこずれが形成されます。

とこずれが生ずる原因

とこずれには,いくつかの分類があります。中でも,急性期と慢性期,浅いとこずれと深いとこずれを見分けることはとても重要です。とこずれ発生後1-3週間程度のいわゆる「急性期褥瘡」では,炎症が強く,水疱,皮膚損傷,むくみなどの病態が目まぐるしく変化します。とこずれの深さが分からないことも少なくありません。「慢性期」に入ると,とこずれの状態は安定するため,深さをある程度把握することができます。慢性期では,真皮にとどまるものを「浅いとこずれ」,皮下組織,あるいはそれ以上の深さに達するものを「深いとこずれ」といいます。浅いとこずれは比較的早く治り,深いとこずれは長期の治癒期間を要します。

とこずれの所見

治療は,外用薬,ドレッシング材,スプレーなど多くの種類があります。急性期,慢性期,炎症の度合い,深さの程度,患者さんの状態などを考慮し,治療法を選択していきます。感染が強いとこずれには,抗生物質を投与することがあります。深くえぐれていてポケットがある場合,まずは外用薬で治療を行い,改善しなければ外科的治療などを試みます。

(黒川晃夫,河口美幸 「大阪医科大学附属病院における褥瘡対策チームの取り組み」 日本義肢装具学会誌 2017より抜粋,一部改変)

乾癬

表皮の細胞が異常な速さで増え,しかも炎症を伴う病気です.表面ざらざらし,分厚い赤みが頭,肘,膝,おしりなど,刺激を受けやすい部分に認められます。

乾癬の所見

約半数で,病変部にかゆみがみられます。爪の変形や関節の痛みを伴う場合もあります。原因として,遺伝的要因,ストレス,風邪,生活習慣(飲酒,喫煙など)といった外的因子に加え,肥満,糖尿病,高脂血症などの内的因子も乾癬を悪化させる要因とされています。

治療は,軽症ではステロイド薬外用,オキサロール軟膏などのビタミンD3軟膏外用が主体で,両者を混合した,マーデュオックス軟膏やドボベット軟膏もよく用いられます。頭皮には,ステロイド薬やビタミンD3,両者が混合された外用薬(ドボベットゲルなど)のほか,コムクロシャンプー(ステロイド含有シャンプー)が効果的です。コムクロシャンプーは患部に外用し,15分おいて,洗髪時に泡立ててから洗い流しましょう。中等度から重症例では,分厚い表皮を改善させるビタミンA誘導体(チガソン)内服,免疫をおさえるシクロスポリンやオテズラなどを内服し,紫外線療法を行うこともあります。上記の治療法で効果がえられない場合や爪病変,関節の痛みを伴う場合,強力に免疫をおさえる「生物学的製剤」という注射薬を用いることがあります。投与することによって,皮膚症状のみならず,関節症状,爪病変の改善をも期待できます。ただし,がんや結核,肝炎のある患者さんなどは投与することができません。投与前に,生物学的製剤の投与が可能か必ず大きな施設で検査する必要があります。生物学的製剤は高額であるため,1カ月の医療費の自己負担額が高額になった場合,年齢,世帯,所得状況に応じた自己負担限度額を超えた額が「高額療養費」として払い戻される,「高額療養費制度」があります。加入している保険者が窓口となりますので,詳しくは担当の保険者にお問い合わせ下さい。一部の生物学的製剤は,医師の注射指導を受けた後,患者さん自身が注射する,「自己注射」も可能となっています。

2023年2月末、当院が乾癬分子標的薬使用施設として、公益社団法人日本皮膚科学会より承認されました。すなわち、乾癬に対する一般治療から分子標的薬まで、幅広く処方することが可能となりました。但し、分子標的薬の場合、まず、基幹病院にて全身検索などを受けたあと、処方が可能と判断された場合、先ず、基幹病院にて分子標的薬による治療を受け、症状が安定した時点で当院にて分子標的薬を扱う運びとなります。ご了承下さい。

掌蹠膿疱症

風邪や扁桃腺のはれ,歯周病などをきっかけに,手のひらや足の裏に,うみや小さな水ぶくれ,赤みなどが繰り返し出現する病気です。掌蹠膿疱症患者さんには喫煙者が多いといわれています・また,歯科金属などの金属アレルギーが関与していることもありますので,金属パッチテストを行うことがあります。時に,胸などの関節が痛くなることもあります。根本的な原因は分かっていませんが,何らかの免疫や炎症などが関与していると考えられています。

治療は,保険適応となる薬剤が若干異なるものの,乾癬と似たような治療を行います。すなわち,ステロイド外用薬,ビタミンD3軟膏外用薬,ビタミンA誘導体(チガソン)内服などを行い,紫外線療法を併用することもあります。原因物質を取り除くことにより,症状が改善することがあります。扁桃腺の炎症や歯周病があれば,その治療を,喫煙者であれば,禁煙指導を行い,歯科金属による金属アレルギーがあれば,陽性の金属が含まれる歯科金属を除去します。

ニキビ

毛穴のつまり,主として男性ホルモンの作用による皮脂分泌の増加およびアクネ菌が増えることによって生じる毛穴の病気です。通常,毛穴がつまっただけの炎症のないニキビから始まります。アクネ菌が増えると,炎症を伴う赤ニキビになり,うみがたまることもあります。炎症が強いと,毛穴の奥にうみがたまった袋や硬い皮膚になることがあります。炎症がおさまる過程で,赤みや色素沈着をきたすことがあります。

治療は,炎症があれば,抗生物質の外用や内服を行います。スキンケアとして,ローションタイプもしくは乳液タイプの保湿剤(例えば,ヘパリン類似物質外用液やヒルドイドローション)の併用を行います。ビタミンB2,B6,Cなどのビタミン剤の内服薬を併用することもあります。保湿剤などで皮膚の状態が整った時点で,毛穴のつまりをおさえるアダパレン(ディフェリンゲル)や,毛穴のつまりを改善し,アクネ菌を殺菌する過酸化ベンゾイル(ベピオゲル、ベピオローション;2023年5月末発売、デュアック配合ゲル),過酸化ベンゾイルとアダパレンの配合剤であるエピデュオゲルなどを外用します。これらは,使い始めに赤み,ヒリヒリ感,皮むけなどを引きおこすことがあります。よって初めから顔全体にぬるのではなく,小さな範囲から徐々に範囲を広げて外用するか,ローテーション法といって,小さな範囲を1日ごとにローテーションしながら外用し,4-5日間で顔全体が外用できるようにします。刺激症状がなくなれば,一度に顔全体にぬっても構いません。なお,ニキビをさわったりつぶしたりすると症状が悪化し,瘢痕をきたすことがあります。洗顔料を泡立て,こすらないよう丁寧に洗顔します。また,規則正しい生活や,バランスのとれた食事をこころがけましょう。漢方薬を併用することも多いですが,症状や男女を考慮した薬剤を選びます。ケミカルピーリングなどの自費治療は,患者さんのニーズに合わせて行います。

円形脱毛症

髪の毛が何らかの原因で抜け落ちて,円形または楕円形の毛のない領域ができる病気です。ひどい場合,髪の毛全体が抜け落ちたり,まつ毛やまゆ毛が抜けたりすることもあります。免疫学的要因,精神的要因,アレルギー的要因,遺伝的要因など,原因は様々です。比較的広範囲にわたる円形脱毛症では,免疫学的要因が関係していることが多く,必ず甲状腺や膠原病(こうげんびょう)といった,免疫が関与する病気にかかっていないか検査する必要があります。

発症に関係していると思われる要因を可能な限り除去することが,円形脱毛症の改善につながります.そのためには,患者さんの話に耳を傾けることが大切です。西洋学的治療として,セファランチン,ユベラ,グリチロンなどの内服薬,フロジン液,トプシムローションまたはクリーム(ステロイド薬)などの外用薬が一般的で,難治の場合,ステロイド薬を少量内服することもあります。2020年4月から,紫外線療法が保険適応となりました。この病気は,漢方薬を併用することで,治療効果がアップすることがあります。柴胡加竜骨牡蠣湯(さいこかりゅうこつぼれいとう),桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう),半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう),補中益気湯など,精神を安定させ,気力をアップする処方がよく用いられます。

(黒川晃夫 チャート式皮膚疾患の漢方治療(⑬心因性皮膚疾患) 東洋学術出版社 2019より抜粋,一部改変)

自費治療では,局所免疫療法などがあります。
2022年6月、オルミエント(⇒アトピー性皮膚炎の項を参照)が、円形脱毛症に対し追加適応となりました。投与対象患者は以下のとおりです。
・年齢15歳以上
・頭部の概ね50%以上の脱毛が認められる
・現在の罹病期間が6ヵ月程度以上
4mgを1日1回経口投与し、患者の状態に応じて2mgに減量します。

  • オルミエント2mg
  • オルミエント4mg

リットフーロ画像 2023年9月27日、JAK(ヤヌスキナーゼ)3/TECファミリーキナーゼ阻害剤、リットフーロカプセル50mgが、円形脱毛症(ただし、脱毛範囲が広範囲に及ぶ難治の場合に限る)に対し、販売開始となりました。投与対象者は以下の通りです。

  • ・年齢12歳以上
  • ・頭部全体の概ね50%以上に脱毛が認められる
  • ・過去6カ月程度毛髪に自然発生が認められない
対象となる用法及び用量:通常、成人及び12歳以上の小児には、50mgを1日1回経口投与します。
投与前検査、投与後検査は、内服JAK阻害薬のサイバインコと同じです(⇒内服JAK阻害薬の項を参照)リットフロー料金画像

多汗症

多汗症には、全身性多汗症と局所性多汗症に分けられます。全身性多汗症は内分泌的疾患や神経障害などが原因で全身に多量の汗をかきます。一方、局所性多汗症は精神的緊張などが原因で手のひらや足の裏、わきなどに多量の汗をかきます。
2020年11月以降、原発性腋窩多汗症、原発性手掌多汗症に対する新薬が次々と販売開始となりました

当クリニックでは、保険診療、自費診療で多汗症治療を行っています。

詳しくはこちら

単純疱疹

単純疱疹とは

単純ヘルペスウイルス(HSV)により、皮膚や粘膜にチクチクとした痛みを伴う小水疱が生じる疾患です。単純疱疹の原因ウイルスは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)と単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)の2つに分類されます。

単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染様式

HSVは感染力が強く、HSV-1は、キスなどによる接触感染、くしゃみや咳などによる飛沫感染以外に、HSVが付着した手指や食器、タオルなどを介しても感染します。一方HSV-2は、主に性交などにより接触感染します。

HSVが初めて感染する、即ち初感染の際、皮膚の微小外傷部や粘膜からウイルスが侵入します。多くは無症状のまま神経線維を伝わって神経細胞が集合している神経節に達します。乳幼児や免疫能低下状態では、高熱を伴うなど強い症状を呈することがあります。初感染後、皮膚症状の発症の有無にかかわらず、HSVは神経節細胞の中でDNAとして存在し、潜伏感染します。潜伏感染細胞には、latency associated transcript (LAT) と呼ばれる転写物が持続的に発現し、LAT が潜伏感染でのウイルス遺伝子の発現を制御していると考えられています。ストレスや免疫能の低下、外傷、紫外線などにより再びHSVの活動が開始され(=再活性化)、神経線維を伝って皮膚症状を起こし、多くは皮膚症状を繰り返します。この場合、既にHSVに対して免疫ができているため、一般に症状は軽度となります。

単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染様式
単純ヘルペスウイルス(HSV)の感染様式

単純疱疹の主な臨床型

  • ①口唇ヘルペス
     成人単純疱疹の中で最も多くみられる臨床型で、口唇およびその周囲に好発します。HSV-1の再活性化によるものが大半を占めています。半数以上がチクチクとした患部の違和感、灼熱感、そう痒といった初期症状を自覚し、その1~2日後、小水疱が生じます。水疱はまもなくびらん、潰瘍、痂疲(かさぶた)を形成し、1週間程度で治癒します。再発性口唇ヘルペスでは、初期症状の段階でかなりのウイルスが増殖しています。
    再発性口唇ヘルペスの臨床症状とウイルス量の推移
    再発性口唇ヘルペスの臨床症状とウイルス量の推移
  • ②カポジ水痘様発疹症
     主にHSV-1の初感染ないし再活性化により、小水疱、びらんが急速に拡大する疾患です。突然の高熱やリンパ節腫脹など、全身症状をきたし、細菌感染を伴うこともあります。アトピー性皮膚炎患者の顔面や上半身に好発しますが、乳幼児では全身に広がることもあります。
    カポジ水痘様発疹症
    カポジ水痘様発疹症
  • ③性器ヘルペス
     主に性行為により感染し、思春期以降に発生することの多い疾患です。HSV-2の再活性化によるものの他、近年、HSV-1によるものも増加しています。男性では亀頭や包皮、女性では陰唇、会陰部に好発し、疼痛を伴う小水疱や小潰瘍が多発します。HSV-2による感染はHSV-1より再発の頻度が高く、数週間ごとに発症することもあります。

単純ヘルペスウイルス(HSV)DNA複製の流れと抗ヘルペスウイルス薬の作用点

皮膚や粘膜に侵入したHSVは、核内にウイルスDNAが放出され、ウイルスDNAの複製が開始されます。まず、複製開始点で、ヘリカーゼという酵素によって、二本鎖DNAが一本鎖に開裂されます。ちなみに、ヘリカーゼは、ヘリックス、即ちらせんをほどくという意味です。その後、DNAポリメラーゼという酵素によってDNAの複製が行われますが、DNAポリメラーゼは、RNAプライマーという短い断片と結合しなければDNAの複製を開始することができません。RNAプライマーは、プライマーゼという酵素により合成されます。

ところで二本鎖DNAは、塩基、糖類、リン酸よりなるヌクレオチドを最小単位とし、それらが多数重なり合い、二重らせん構造を形成しています。塩基にはプリン骨格をもつアデニン(A)、グアニン(G)、ピリミジン骨格をもつチミン(T)、シトシン(C)の4種類が存在し、それらの塩基配列などにより遺伝情報が記録されています。二本鎖DNAは、2本の鎖がAとT、GとC という組み合わせで結合(=相補的結合)しています。ヌクレオチドの一つであるデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)のうち、A、T、G、Cを塩基としてもつものをそれぞれデオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシチミジン三リン酸(dTTP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)といいます。DNAポリメラーゼは、一本鎖DNAを鋳型とし、それらと相補的な塩基をもつdNTPを付加し、DNAを複製していきます。

ゾビラックス(一般名:アシクロビル)は、ヘルペスに感染した細胞内に侵入すると、アシクロビル三リン酸(ACV-TP)となります。バルトレックス(一般名:バラシクロビル)は、経口投与後アシクロビルに変換され、ヘルペスに感染した細胞内に侵入すると、アシクロビル三リン酸(ACV-TP)となります。ファムビル(一般名:ファムシクロビル)は、経口投与後ペンシクロビルに変換されます。ペンシクロビルは、ヘルペスに感染した細胞内に侵入すると、ペンシクロビル三リン酸(PCV-TP)となります。ACV-TP、PCV-TPともに、プリン骨格を有する核酸類似体で、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)の中でグアニン塩基をもつ、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)と構造が類似しています。従って、ACV-TP、PCV-TPはdGTPと競合拮抗し、より親和性の高いACV-TP、PCV-TPがDNAポリメラーゼに取り込まれ、DNA鎖の伸長が阻害されます。

一方、アメナリーフ(一般名:アメナメビル)は、DNAの初期段階で働く酵素、ヘリカーゼ・プライマーゼ複合体を直接阻害します。ヘリカーゼを阻害することで二本鎖DNAの開裂を阻害し、プライマーゼを阻害することで、RNAプライマー合成を阻害します。つまり、鋳型の一本鎖DNAと相補的なDNAが複製される前の段階でDNA複製を阻害します。

ウイルスDNA複製の流れと抗ヘルペスウイルス薬の作用点
ウイルスDNA複製の流れと抗ヘルペスウイルス薬の作用点

検査法

  • Tzanck(ツァンク) 試験
     水疱やびらん、潰瘍から得られた検体をスライドガラスに乗せ、ギムザ染色した後、顕微鏡でウイルス性巨細胞の有無を調べる検査です。ウイルス性巨細胞はヘルペスウイルス感染に共通の所見であり、この検査では単純疱疹と帯状疱疹とを区別することはできません。

デルマクイックHSV

2023年2月、販売開始となりました。デルマクイックHSVは、水疱やびらん、潰瘍から得られた検体から、簡便にかつ5~10分で迅速にHSV抗原を検出できるキットです。検査開始5~10分後、コントロールライン(C)とTライン(T)に赤紫色の線が認められたら陽性と診断します。特異性が高く、単純疱疹の正確な診断が可能です。また、検体の1回採取で、デルマクイックVZV(帯状疱疹の、デルマクイックVZVの項を参照)との相互使用が可能ですが、現在のところ、通常は先に使用した検査キットが陰性の場合のみ、もう片方の検査キットの使用が可能となっています。

デルマクイックHSV
デルマクイックHSV

治療

軽症例や角膜炎には、アラセナ−A軟膏やゾビラックス眼軟膏などの抗ヘルペスウイルス薬外用を、重症例や免疫不全者には、ゾビラックスやアラセナ−Aなどの抗ヘルペスウイルス薬点滴を行うことがありますが、治療の基本は抗ヘルペスウイルス薬内服です。

以前は皮疹が出現する度に外来を受診し、内服薬が投与される方法のみ行われてきました。1988年、ゾビラックス錠200が登場しましたが、血中濃度を維持するために、本剤200mgを朝食後、昼食後、午後4時頃、夕食後、眠前の1日5回、5日間経口投与する必要があります。2000年、バルトレックス錠500が発売され、1回500mgを1日2回、5日間の投与となりました。2006年、性器ヘルペスの再発抑制を目的とし、免疫正常患者で、年間概ね年6回以上の頻度で再発する方に対し、バルトレックス1回500mgを1日1回経口投与する用法が適応追加となりました。2008年、ファムビル錠250mgが販売開始され、1回250mgを1日3回、5日間経口投与します。

Patient Initiated Therapy(PIT)とは

チクチクとした患部の違和感、灼熱感、そう痒といった初期症状の段階でかなりのウイルスが増殖しています。抗ヘルペスウイルス薬経口投与は、発症初期に近いほど治療効果が高いとされていますが、初期症状の時点で医療機関を受診できている患者は少ないとされています。Patient Initiated Therapy(PIT)とは、患者にあらかじめ処方し、初期症状を自覚した段階で、患者の判断で服用開始する治療方法です。初期症状を正確に自覚できる患者であることが条件で、PITで治療できれば、発病初期での治療が可能で、服薬日数の短縮、服薬アドヒアランス(患者が疾患について十分認識し、積極的に治療に参加すること)の向上につながります。

2019年2月、ファムビルのPITによる短期間投与が適応追加となりました。同じ病型の口唇ヘルペスまたは性器ヘルペスを、年間概ね3回以上再発を繰り返す方、ピリピリなどの再発の初期症状を判断できる方、腎機能等を踏まえ、服用時に適切な用法・用量が選択できる方が対象で、初期症状発現後6時間以内に1回目1000mg(4錠)を、その12時間後を目安に2回目1000mg(4錠)を経口投与します。

2017年9月、アメナリーフ錠200mgが帯状疱疹に対し販売開始となり、2023年2月、アメナリーフのPITによる単回投与が適応追加となりました。同じ病型の口唇ヘルペスまたは性器ヘルペスの再発を繰り返す方(回数に制限はありません)、ピリピリなどの再発の初期症状を判断できる方が対象で、初期症状発現後6時間以内に200mg(6錠)を1回のみ食後経口投与します。PITが承認されたことにより、単純疱疹が出現する度に外来受診する必要性はなくなっただけでなく、発症を未然に防ぐ、或いは軽微な発症で抑えられることも可能となりました。

帯状疱疹

帯状疱疹とは

ストレスや老化、内臓悪性腫瘍、免疫能の低下などが契機となって、神経節に潜伏していた水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)が再活性化し、片側の神経支配領域に一致して帯状に水疱、紅斑が出現し、ピリピリとした痛みを伴う疾患です。まれに両側もしくは複数の神経支配領域に同時に生じることがあります。神経痛は皮疹が出現する数日前より生じることが多いとされています。

日本では、80歳までに約3分の1が発症し、50歳以上がその7割を占めているといわれています。多くは生涯で一度しか生じませんが、一生に複数回発症することもあります。

水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の感染様式

VZVの初感染は、空気感染または接触感染により、多くは小児期に水痘(水ぼうそう)として発症します。感染したVZVは、水痘治癒後、神経線維を伝ってほぼ全身の神経節に潜伏感染します。15歳以上のおよそ9割はVZVに対する抗体を持っています。免疫力の低下などにより潜伏したウイルスの再活性化が起こり、ウイルスは神経線維を経由し皮膚に達し、帯状疱疹が発症します。

水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の感染様式
水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の感染様式

水痘単純ヘルペスウイルス(VZV)DNA複製の流れと抗ヘルペスウイルス薬の作用点

水痘単純ヘルペスウイルス(VZV)DNA複製の流れと抗ヘルペスウイルス薬の作用点は、単純ヘルペスウイルス(HSV)と同様であり、単純疱疹の、単純ヘルペスウイルス(HSV)DNA複製の流れと抗ヘルペスウイルス薬の作用点の項を参照。

帯状疱疹の臨床経過

皮膚と神経でウイルスが増殖し炎症が起こっているため、皮膚症状およびピリピリとした疼痛(急性期痛)の両方が生じます。神経に沿って帯状にやや盛り上がった紅斑が認められ、その後水疱が出現します。水疱は次第に拡大し、膿を伴うこともあります。その後痂疲となって皮膚症状は治癒しますが、皮疹が深部にまで達した場合、瘢痕が残ることがあります。多くは皮疹の改善とともに疼痛も消失してきますが、発症後3カ月以上も神経痛が残存する、帯状疱疹後神経痛(PHN)をきたすことがあります。急性疼痛は、皮膚の炎症による痛み(侵害受容性疼痛)ですが、PHNは、ウイルスにより神経が傷ついたことによる痛み(神経障害性疼痛)です。PHNは、高齢者、女性、帯状疱疹の症状(皮疹や疼痛)が重症である方などに起こりやすいとされています。

帯状疱疹の臨床経過
帯状疱疹の臨床経過

水痘と帯状疱疹の感染

水痘は、水痘にかかったことのない乳幼児などに感染する場合があります。帯状疱疹は、帯状疱疹としてうつすことはありませんが、水痘に罹患したことのない乳幼児などに、水痘として感染する場合があります。水痘についてはこちら項を参照。

水痘と帯状疱疹の感染
水痘と帯状疱疹の感染

検査法

デルマクイックVZV

2018年1月、販売開始となりました。デルマクイックVZVは、水疱やびらん、潰瘍から得られた検体から、簡便にかつ5~10分で迅速にVZV抗原を検出できるキットです。検査開始5~10分後、コントロールライン(C)とTライン(T)に赤紫色の線が認められたら陽性と診断します。特異性が高く、帯状疱疹の正確な診断が可能であるため、今や、帯状疱疹における検査の主流となっています。また、検体の1回採取で、デルマクイックHSV(単純疱疹の、デルマクイックHSVの項を参照)との相互使用が可能ですが、現在のところ、通常は先に使用した検査キットが陰性の場合のみ、もう片方の検査キットの使用が可能となっています。

デルマクイックVZV
デルマクイックVZV

特殊な病型・合併症

  • ①汎発性帯状疱疹
     高齢、ステロイド剤や免疫抑制剤投与、膠原病や悪性腫瘍などにより免疫が低下した状態では、典型的な帯状疱疹の皮疹出現後、全身に水疱に似た発疹が汎発することがあります。この場合、個室隔離など、水痘に準じた感染対策が必要となります。
  • ②眼症状
     皮疹が顔面の三叉神経第1枝領域に出現すると、角膜、結膜、ぶどう膜などの炎症や障害をきたし、目の充血、異物感、目の痛み、羞明(しゅうめい;まぶしいこと)、視力低下などの症状が出現することがあります。従って、三叉神経第1枝領域に生じた帯状疱疹の多くは眼科受診が必要となります。
  • ③ラムゼイ・ハント症候群
     皮疹が耳周囲に出現すると、時に顔面神経麻痺、耳鳴り、難聴、めまい、味覚障害などの症状が生じることがあります。ラムゼイ・ハント症候群は後遺症が残りやすく、早期に入院し、ステロイド薬の全身投与が必要です。
  • ④膀胱直腸障害
     外陰部(腰仙髄神経)領域の帯状疱疹では、排尿障害や便秘をきたすことがあります。尿が出なくなった場合、バルーンカテーテル留置での導尿が必要となります。

治療

抗ヘルペスウイルス薬の全身投与が治療の主体です。1988年、ゾビラックス錠200が、1992年にはゾビラックス錠400が登場しましたが、血中濃度を維持するために、本剤800mgを朝食後、昼食後、午後4時頃、夕食後、眠前の1日5回、5日間経口投与する必要があります。2000年、バルトレックス錠500が発売され、1回1000mgを1日2回、5日間の投与となりました。2008年、ファムビル錠250mgが販売開始となり、1回500mgを1日3回、5日間経口投与します。2017年9月、アメナリーフ錠200mgが販売開始となり、1回400mgを1日1回、7日間経口投与します。重症例や免疫不全者には、原則入院の上、ゾビラックスやアラセナ−Aなどの抗ヘルペスウイルス薬点滴を行います。

急性疼痛や帯状疱疹後神経痛(PHN)に対し、カロナール(一般名:アセトアミノフェン)、メチコバール(ビタミンB12)、リリカ(一般名:プレガバリン)、ノイロトロピン、トラムセットなどの経口投与を行い、疼痛が著しい場合、ペインクリニックにて神経ブロックなどの治療を行います。

皮疹に対し、抗炎症、保護目的でアズノール軟膏などを外用します。亜鉛華軟膏や外用抗菌薬、ステロイド外用薬などを併用することもあります。水痘にかかったことのない方には水痘として罹患する危険性があり、患部を可能な限りガーゼ保護を行います。

帯状疱疹ワクチン

帯状疱疹は、ワクチン接種により予防することが可能です。ワクチンは、感染症を引き起こす細菌やウイルスの病原性を弱めたもの、またはその一部を抽出したもの、あるいは病原性を完全に除去したものを含んでいます。これらのワクチンを体内に投与することで、ワクチンの成分(細菌やウイルス)に対する免疫力が向上し、病気の発生や重症化を防ぐことができます。

帯状疱疹の予防策としては、特に50歳以上の人々を対象としたワクチンが存在します。水痘に罹患した経験がある人は、既に水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫を持っていますが、年齢と共にその免疫力は弱まってしまいます。そのため、再度ワクチンを接種し、免疫力を強化することで帯状疱疹を予防することが推奨されています。予防接種は帯状疱疹を100%防ぐわけではありませんが、発症した場合でも症状が軽減されるとの報告があります。

帯状疱疹ワクチンについてはこちら

水虫

白癬(はくせん)菌というカビが,皮膚の角質や爪などに感染した病気です。感染経路として,ヒトからの直接感染や湿ったマットなどを介しての感染,ペットからの感染などがあります。白癬は,足裏や指のまた,足爪に生じることが多いですが,大人に比べ小児では,頭皮や体に認められる割合が高いとされています。21世紀に入り,柔道部員やレスリング部員に水虫の集団発生がみられるようになり,家族などへの感染が拡大しています。見た目の症状は様々です。足裏に発生した水虫では,白い粉をふいたような分厚い皮膚や水ぶくれを伴う赤みをきたし,指のまたにできた水虫は,乾燥またはじゅくじゅくした皮めくれがみられます.爪水虫は,爪の表面が白または黄色ににごり,爪は分厚く,変形していることもあります。水虫のよそおいをしても,実は水虫でないこともよくあります。したがって,水虫の診断は,病変部位を削って,白癬菌がいるかどうか顕微鏡でチェックすることが不可欠です。

治療は,抗真菌薬の外用が主体です。患者さんが抗真菌薬を外用し,かぶれをきたしている場合も多くみられます。このようなケースでは,たとえ水虫が検出されたとしても,かぶれの治療,すなわちステロイド薬を主とする外用を優先すべきです。じゅくじゅくした水虫に対し,クリーム状あるいはローションタイプの抗真菌薬を外用すると,かぶれる危険性が高いので,必ずべたべたした軟膏を用い,場合によってはアズノールなどの保湿剤を併用します。足裏に生じた分厚い皮膚の症状をきたした水虫に対しては,角質をやわらかくする軟膏を併用します。爪水虫に対する外用薬も改良が加えられ,比較的爪の厚みが少ない水虫では,外用薬のみで完治することもあります。ただし,爪をやわらかくする外用薬を併用したとしても,完治する割合は20%程度と低いとされています。最近,1日1回,12週間服用するだけで,爪水虫の半分以上が完治する,ネイリンという内服薬が発売されました。内服後,低頻度ながら肝臓や腎臓に障害をきたすことがあります。よって,内服開始前,内服開始4週後(不可なら6週後)には必ず血液検査をします。

白癬

虫さされ

虫がさしたり咬んだり,あるいは虫に触れたりすることによって生じる病気です。多くは赤いブツブツやなだらかなふくらみがみられ,しばしばかゆみや痛みを伴います。 スズメバチやアシナガバチは,さされた瞬間,激しい痛みがはしり,その後赤くふくらんできます。何度もさされると,さされた場所以外にもじんましんができたり吐き気がしたりすることがあります。特にスズメバチでは,ショック症状を来すこともあります。林業など,ハチに何度もさされるような職業にたずさわっている人は,エピペンを絶えず携帯しておきましょう。エピペンは,ハチさされなどでショックになりかけた時,症状の進行を食い止める注射薬です。赤くふくらんだ部分に対する治療として,強めのステロイド薬外用および抗ヒスタミン薬内服を行います。症状が著しい場合,短期間,ステロイド薬内服を併用します。

カ,ブヨ(ブユとも),イエダニ,マダニ,ネコノミはいずれもヒトの血を吸う虫です。いずれも春から秋にかけて出現し,赤くてかゆいブツブツがみられます。ブヨにさされると赤くはれ,ほっておくとかゆいしこりが残ることがあります。野山に行くと,皮膚にマダニが吸着していることがあります。吸着後,数日から数週間の後,さし口を中心にリング状の赤みが出現することがあります。マダニが皮膚に吸いついていたら,無理に引っ張らず,そのままクリニックに来て下さい。無理に引っ張ると,食べ物を食べる時に使う,口器という器官が皮膚に残ってしまうからです。ネコノミは,10~30cm程度の高さまでぴょんぴょん飛びます。主に膝から下に,強いかゆみを伴うブツブツがみられたら,ネコノミの可能性があります。※参考【小児皮膚科;アタマジラミ】。治療は,いずれもステロイド薬外用および抗ヒスタミン薬内服が主体ですが,マダニにさされた場合,抗生物質の内服を1-2週間併用する必要があります。

毛虫皮膚炎は,ドクガ類の幼虫がもつ毒針,イラガ類の幼虫にある毒のあるとげなどが触れて生じる病気です。中でもチャドクガの幼虫は5~6月と8~9月に発生し,サザンカやツバキの葉をくいあらします。その頃,毛虫皮膚炎が多く出現します。毒針は風に吹き流されるため,屋外にいるだけでも毛虫皮膚炎になることがあります。毒針が付着した下着や布団を介して症状が出現することもあります。毒針に触れたら決してこすらず,テープではがすかシャワーで流して下さい。治療は,強めのステロイド薬外用および抗ヒスタミン薬内服を行います。症状が著しい場合,短期間,少量のステロイド薬内服を併用します。

疥癬(かいせん)

ヒゼンダニというダニの仲間がヒトの皮膚表面に寄生することによって生じる,かゆみの強い病気です。ヒゼンダニは,メスが約0.4㎜で,オスはメスの約3分の2の大きさです。老人施設や病院などで院内感染することが多く,湿疹その他の皮膚病と誤診されることがあります。そのため,経験のある皮膚科医による診断が必要となります。ヒゼンダニは人肌から離れると,長くは生きることができず,50度以上の環境に10分以上さらされると死ぬといわれています。

疥癬には,通常疥癬と角化型疥癬(ノルウェー疥癬)の2種類があります。そのほとんどは通常疥癬です.通常疥癬は,首より下にかゆみの強いぶつぶつや指の間などにあかぎれのような症状がみられるのが特徴です。特に指の間には,メスの成虫や多数の卵が検出される,疥癬トンネルが高頻度にみられます。一方,角化型疥癬は,ほぼ全身に,まるで長時間入浴していないかのような分厚いあかが皮膚にこびりついた症状を示します。角化型疥癬では通常疥癬の1万倍以上のヒゼンダニが寄生しています。通常疥癬の潜伏期間はおよそ1カ月ですが,角化型疥癬はそれより短いことが多く,注意を要します。通常疥癬の患者さんをケアする際,予防着の着用や隔離は不必要ですが,手袋はしておきましょう。一方,角化型疥癬では,1-2週間の隔離が必要で,入室時,手袋や予防着の着用は不可欠です。また,通常疥癬では,シーツ・寝具・衣服,洗濯などに対する特別な対応は必要ありません。一方,角化型疥癬では,シーツや寝具・衣服は毎日交換します。また,洗濯物は他の人とは別に扱い,50度以上のお湯に10分以上ひたした後に洗濯します。

指の間やブツブツを10カ所以上削って顕微鏡でみて診断します。削る箇所が少ないと疥癬の検出率が低くなり,誤診を招きかねません。治療は,寄生虫を殺す作用のある,ストロメクトールの内服が最も有効です。1回の内服でよい場合もありますが,症状がひどい場合など,何回か服用しなければ治ゆしないことも少なくありません。スミスリンローションやオイラックスクリームの外用,抗ヒスタミン薬内服を併用することもあります。スミスリンローションは,1週間間隔で,首から下全体を外用し,12時間以上経過後,シャワーなどで薬を洗い流すことを2回以上行います。オイラックスクリームも,首から下に外用しますが,角化型疥癬の場合,全身に外用します。

疥癬 疥癬